作品を制作するということ

 おかげさまでSui-Boku クリエイターとして活動を始めてからこれまで注文を受けて作品を仕上げさせて頂いております。

これまでサラリーマン、教員等様々な職種を経て現在に至っています。美術系の大学を出てその知識や技術を何とか活かしつつ生活ができればと思って現在のスタイルに辿り着きました。

 

 クルマに特化して作品を制作する、というある種限定的な枠の中で私の表現する世界に共感して、感動して頂ける事が私にとって何よりの喜びとなっております。

 

 教員を退職してから一校だけある中学校で病休代替講師を務めさせて頂きました。

特別支援学級担任という職務を与えられ、半年という短い期間でありましたが自分にとってかけがえのない子どもたちとの出会いや日々の学校生活の中で貴重な体験となりました。

障がいを抱えながらも明るく笑顔を絶やさない子どもたちに囲まれ、楽しく過ごしたあの時間が無ければ私は「墨」で作品を制作することはなかったかもしれない…そんな感じさえしています。

 

特に、私が描く絵をとても気に入ってくれて、「先生みたいに僕も絵を描いてみたい」と放課後も私の側を離れない子どもがいました。アニメが大好きでいろんなDVDも自分のものを家から持ってきて他の子どもたちとも一緒にたくさん観ました。休み時間にもそこに出てきたキャラクターを描いたり、本当に絵を描くのが好きな子どもでした。

放課後、2人でイラストを描いていると「先生、ぼくね…」と悲しそうな顔を浮かべながら話をしてくれたことがありました。詳細は割愛しますが、絵を描いている理由についてでした。「絵やイラストを描いていると、嬉しい気持ちになるの。」私は「それはすごく良いことだね。」と答えました。「でもね、学校で絵ばかり描いていると僕は嬉しいけど他の友だちと話してないんだ、それはだめだよね?」と聞かれました。

「だめじゃないさ。みんなで話す時は声を出して話して、そうじゃない時間で絵を描いて、その絵をみんなに見せたら声で話すよりたくさんお話したのと同じになるよ。君の絵を観た人の心に伝わるんだ。」そう話すと「そうだよね、じゃあ描いても良いんだよね?」「もちろん!」

 

「声や言葉で伝わること」と「心に伝わること」の違いは恐らくまだ良く理解は出来なかったかな?と思っているとボソッと言い忘れたことを付け加えるように静かな声で「じゃあ、もうお話はできないけどお母さんにも見せよう。」

小学校の時にお母さんを失くしていたのでした。「そうだね、たくさん描いて見せようよ」

その言葉の後の彼の笑顔が今でも鮮明に浮かんできます。

 

私が現在作品を制作しているのも、この子どもと同じです。「クルマ」を純粋に、純朴に、子どもの頃と同じような気持ちで愛する方々にきっと言葉でなく、心に響いてほしいと思うからです。そして私自身も描くのが好きでしょうがない、クルマが好きでしょうがないんです。

だから自分の作品も好きです。愛着があります。私自身が納得いくまで筆を入れ仕上げた作品が可愛くない訳がありません。

 

その子どもは今年高等部への進学が決まり、現在は新しい環境の中で新しい友達の中でまたイラストを描いていると信じています。

私も彼に負けないように制作活動を続けていきたいと思っております。

 

クルマで走る道すがら、桜が散り始めたのを見てふと思った雑感でありました。